前回までのコラムで、霞ヶ関によるEAの持ち込み方がまずかったせいで、様々な悲劇を生んでしまったことを書きました。3回にわたって書くとは霞ヶ関に何か恨みでもあるのかと、とある方からご指摘を賜りました。霞ヶ関の官庁様にはこれまでいろいろな仕事をさせていただいた恩こそあれ、恨みつらみは一切ございませんので、この場を借りて補足させていただきます。
さて今回から2回にわたってですが、EAが持ち込まれた当時の政治や世相など社会的背景を絡めつつ、なぜEAが霞ヶ関で導入されたのかについて迫まってみたいと思います。
すべての始まり「e-Japan戦略」
2001年1月、政府は「5年以内に世界最先端のIT国家になる」という目標を掲げた「e-Japan戦略」を公表しました。(ここでいうIT国家とは行政機関のみならず民間企業や一般家庭も含まれます。)
時は21世紀の幕開け、前年に故小渕恵三の後を継いだ森元首相が所信表明演説で「あいぴーばーじょんしっくす」と(意味も分からず)読み上げるなど、経済成長分野としてITが着目されはじめた時期にあたります。バブル崩壊以降低迷している景気の打開策として「IT立国」という新しい日本の進むべき道が示された時期でもあり、その後(言葉だけは)一世を風靡する「IT革命」のまさに黎明期と言ってもよいでしょう。
ではe-Japan戦略とは一体何なんでしょうか。インターネットで検索するとWikiでこんな記述が引っかかりますので引用します。
> 2001年(平成13年)1月22日、IT戦略本部は、e-Japan戦略として、IT国家戦略を策定した。
> 「我が国は、すべての国民が情報通信技術(IT)を積極的に活用し、その恩恵を最大限に
> 享受できる知識創発型社会の実現に向け、早急に革命的かつ現実的な対応を行わなけ
> ればならない。市場原理に基づき民間が最大限に活力を発揮できる環境を整備し、5年
> 以内に世界最先端のIT国家となることを目指す。」
> 重点政策分野としては次のとおり。
> 1.超高速ネットワークインフラ整備及び競争政策:5年以内に超高速アクセス(目安として
> 30~100Mbps)が可能な世界最高水準のインターネット網の整備を促進し、必要とする
> すべての国民が低廉な料金で利用できるようにする。
> 2.電子商取引
> 3.電子政府の実現
> 4.人材育成の強化
(以上、Wikipediaから引用)
電子政府の実現とレガシー問題
e-Japan戦略の中で重点施策分野として挙げられた「電子政府の実現」に基づく形で、霞ヶ関は行政の情報化を推進し「国民の利便性の向上」、「行政運営の簡素化」並びに「効率化及び透明性の向上」を実現するための「電子政府構築計画」を2003年にスタートさせます。
当時の霞ヶ関には俗に言うレガシーシステムが蔓延していました。レガシーシステムは「国民にとって不便」、「複雑な行政(システム)運営」並びに「あまりに非効率/不透明」と、まさに税金の無駄遣いの象徴でした。逆にベンダーにとっては、甘い汁をお腹一杯吸うことができる楽園で我が世の春を謳歌しているような状況だったのです。
ちなみに当時はレガシーといわれる36のシステムだけで年間4000億円近く(電子政府予算は5000億弱)の費用がかかっており、その8割のシェアは大手企業10グループだけで分けあっていたような状況でした。政府は長らく稼働しているホストコンピュータによって特定ベンダーに囲われていて、ベンダーから請求されるがままにシステム関連費用を支払っていました。問題は毎年かかる莫大なコストだけでは収まりません。ベンダー独自技術の固まりであるホストコンピュータゆえに他のシステムと繋がらない、アーキテクチャが古いため処理速度が遅い、等といった利便性の悪さにおいても問題は山積していたのです。
これがいわゆるレガシー問題です。政府としてはベンダーに囲われる原因となるホストコンピュータをオープン化し、そこに競争の原理を持ち込むことでITにかかるトータルの費用を削減し、かつ最新技術により利便性を向上させる必要に迫られていたのです。
(次号 EA来襲 その時歴史は動かなかった ② に続きます)
※前回までのリンク
EAコラム(1) みなさん元気にEAやってますか?
http://www.ariscommunity.com/users/hide-char/2010-08-25-ea-1-ea
EAコラム(2) EAが巻き起こした悲劇 ①
http://www.ariscommunity.com/users/hide-char/2010-09-03-ea-2-ea
EAコラム(3) EAが巻き起こした悲劇 ②
http://www.ariscommunity.com/users/hide-char/2010-09-07-ea-3-ea
EAコラム(4) EAが巻き起こした悲劇 ③
http://www.ariscommunity.com/users/hide-char/2010-09-17-ea-4-ea